自然な眠りの作法

眠りの質を向上させるために、
眠りのしくみを理解しましょう

ヒトはリズムで生きています

ヒトは生体時計機構を持ち、さまざまなリズムによって律されています。
バイオリズムや女性の月経などもその1つです。
睡眠もそうしたリズムの1つと考えることができます。
このリズムが崩れると不眠などの眠りのトラブルに見舞われます。

1.睡眠のしくみ

1-1.一日の眠りのリズム

眠気のリズムの調査によると、日中の眠気が午後2時~4時に強くなり、日中の12 時間周期の眠気のリズムのピークにあることがわかります。
また、夜間では午前2 時~ 4 時に眠気が強くなり、24時間周期でのリズムのピークにあります。

スウェーデンのガス作業従事者による作業ミスの発生時刻の調査によると、作業ミスは午前2時台に最も多く発生し、日中では午後2時台に多いことが報告されています(Bjerner ら、1995)。チェルノブイリ原発など大きな事故も午前2~4時頃に発生していることが多いのです。これらの時刻は、眠気のリズムのピークとほぼ対応しています。

日中に眠気の強い人は、日頃の夜間の睡眠不足があり、生活習慣を見直す必要があります。
眠気の回避には20~30分程度の昼寝を午後3 時までにとることも有効です。




グラフ ヒトの体温変化と眠気のリズム

1-2.睡眠のリズムを理解しましょう

<ノンレム睡眠とレム睡眠>
ヒトの眠りにはノンレム睡眠(脳を休める睡眠)とレム睡眠(脳を育てる睡眠)の2種類があり、ほぼ90分のサイクルで交替します。
ノンレム睡眠は、さらに浅睡眠と深睡眠に分けられ、大切なのは深睡眠(除波睡眠ともいわれます)で、これが脳を休める大きな働きをします。
一方レム睡眠は、浅い睡眠というよりは質の違う睡眠です。この時には、脳は記憶を整理しています。夢を見るのもレム睡眠時といわれます。



グラフ 正しい眠りのリズム

1-3.睡眠に関係する3つのホルモン

夕方から夜にかけて睡眠ホルモンともいえるメラトニンが分泌されます。メラトニンは夜半に最大になります。
一方、抗ストレスホルモンであるコルチゾールは、睡眠後半から増えて行きます。起床に備えるためです。
成長ホルモンは、睡眠前半の深い深睡眠時に最も多く分泌されます。成長ホルモンは新陳代謝を司ります。子どもにとっては文字通り成長するために必要ですし、大人にとっては身体の補修を行います。睡眠不足だと肌が荒れる、というのは成長ホルモンの分泌が足らないためといえます。

1-4.体温の変化

眠るということは身体の代謝を下げ、脳や身体を休めることですから、睡眠の間に体温は通常より1~2℃下がります。
ヒトの身体は入眠の準備を始めると体温を下げるために、手や足などの末梢血管を通じて温度を放出します。末梢血管がラジエーターで、血液が冷却液と考えていただければいいでしょう。このため、入眠前には体温が少し上がります。これは幼児や子どもに顕著です。冷え性など血行があまり良くない人は、この働きが弱く、寝入りにくい傾向があります。
一方、睡眠の後半では起床に向けて体温が徐々に普通体温へ上がって行きます。草木も眠る丑三つ時と云われますが、真夜中は体温が最も低くなるためです。事故が起こりやすい時間でもあります。

1-5.発汗

体温を下げるために、入眠後に多く発汗します。この最初の90分間に最も深い眠りが得られ、それに比例して成長ホルモンが分泌されるという、睡眠にとって最も重要な部分です。従って、質の高い睡眠のためには、この時の寝具の温湿度調節が非常に重要になってきます。

1-6.寝返り

ヒトは一晩に20回ぐらい寝返りを打つのが正しいという説がありますが、そもそも寝返りの定義があいまいで、これが正しいという説はありません。
ただ、硬すぎる布団だと床に当たる部分が鬱血するため、寝返りを起こすきっかけになります。
寝返りする際に、脳が身体に司令を出します。そのため、一旦睡眠が浅くなります。頻繁な寝返りは睡眠の質を低下させます。
一方で、寝返りは血液循環のために必要という説があり、睡眠の質を損なわない適度な寝返りは必要といわれています。



2.自然な眠りのリズムを得るための睡眠環境

睡眠環境の要素には 温度、湿度、光、音、匂い、寝具の機能などが挙げられます。
ヒトにとって不快な要素が多いと、眠りは妨げられます。
逆に、ストレスを与えない睡眠環境を用意することが、質の高い睡眠に必要なのです。

2-1.温度と湿度

室内の温湿度と寝具内の温湿度とに分けられますが、寝具内は温度33℃湿度50%が理想的とされています。
一方、室内は外気温との差がありますので、夏は25~28℃で60%ぐらい、冬は18~22℃で50~70%ぐらいが快適とされています。 ただ、箱に入れて環境を作れば良いというものではありません。自然な眠りのためには、身体にストレスを与えにくい自然素材を中心としたバウビオロギーの考え方で睡眠環境を整えることが大切だと考えています。

日本の住宅は冬の室温が低いので、寝具内が33℃になっているために、急激な温度変化があるとヒートショックによる血管事故のリスクが高くなります。寝室だけでなく、トイレまでの廊下の温度も注意しなければなりません。

一方、夏は湿度の問題が一番です。不快指数が高くなると入眠しづらくなります。また、日中の直射日光で壁面に溜まった輻射熱が放出され、夜中でも暑いという状況が増えています。予め冷房で壁を含めた部屋温度を下げるなどの工夫が必要です。

2-2. 光環境

光は睡眠リズムの上で重要な役割を果たしています。
ヒトの体内時計は25時間制となっていて、朝に光を浴びて、体内時計をリセットしますので、朝に太陽光を浴びるのはとても大切なことです。この意味から、交替勤務等でない限り、遮光カーテンはおすすめできません。
一方、夜においては、明るすぎると睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑えてしまいます。特にLED照明に多い青白光は、メラトニン抑制効果が高いので、昨今テレビやパソコン、ゲーム等でブルーライトカットが話題になっているのはこのためです。ですから、特に睡眠が脳と身体の育成に重要な役割を果たす乳幼児には、テレビやスマホなどは十分な注意が必要です。

2-3.音・匂い

不快な音や匂いは睡眠を妨げます。一方、リラクゼーション音楽やアロマテラピーなどは、睡眠に役立つといわれています。
確かに、アルファ波を増やすようなゆったりとした音楽や、ラベンダーなど鎮静効果のある香りは一定の効果があります。
ただ、いくら睡眠に良いといっても、使う人が嫌いであったり、過度なものは逆効果になりますので、自分が納得する範囲でお使いください。

2-4. 寝具

理想的とされる温度33℃湿度50%に、いかに素早く到達するかということがポイントです。最初の眠りで発汗量が最大になりますから、即温性だけでなく、素早い吸放湿で湿度を一定にできる寝具選びが重要です。
また、宇宙空間と違い重力がかかっていますから、ストレス少なく身体を支えるしくみがもう1つの大きなポイントになってきます。
しばしば、「枕が・・・」といわれますが、枕は敷寝具の一部でしかありません。これを使えば眠れる、ということではなく、眠りを阻害するストレスを可能な限り少なくしていくことが大切なのです。

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